役員変更に関する不正登記

 皆様こんにちは、弁護士の吉田勇輝です。法律事務所かがやきのウェブサイトにお越しいただきありがとうございます。今回のトピックは、役員変更に関する不正登記についてです。

1. はじめに

 報道等によれば、2022年11月10日、韓国の大手消費者金融会社「三和貸付」を傘下に持つ資産管理会社「ユナイテッド」(東京都新宿区)の役員変更に関する虚偽の登記を行ったとして、警視庁は男女6人を逮捕したとのことです。

 具体的には、容疑者らは、ユナイテッドの既存の取締役を解任したとする架空の株主総会の議事録や、偽造した株主リスト等を法務局に提出の上、自らが新たに取締役に就任したとする虚偽の登記を申請した疑いが持たれています。同社の子会社にあたる三和貸付は、不動産や債権など計約1000億円の資産を有するとされており、容疑者らは、三和貸付の乗っ取りを図ろうとしたものと考えられています。

 今回は、役員登記制度及びその不正登記を防止するための措置等について説明したいと思います。

2. 役員選任及び登記

 会社法上、取締役や監査役といった株式会社の役員は、株主総会の普通決議によって選任されます(3291項及び341)。取締役の解任についても同様に株主総会の普通決議で行うことができますが、監査役の解任については、株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要)によって行う必要があります(30927号及び3391)。

 そして、株式会社の役員の選任や解任があった場合、その日から2週間以内にその旨の変更登記を行う必要があり、それを怠った場合、当該会社の代表者に対して100万円以下の過料が科される可能性があります(915条1項及び976条1号)。実例としては必ずしも多くないものの、登記を怠ったとして、実際に過料が科された例もあります。

3. 不正登記の防止のための措置

 役員変更登記の申請にあたっては、株主総会議事録、株主リスト、役員の就任承諾書及び印鑑証明書等の必要書類を添付する必要があります。ただし、これらの書類が偽造され、虚偽の登記がなされてしまう可能性があります。

 特に、株式会社においては、株主に関する情報は登記事項ではないため、法務局において、株主の変遷について把握することはできません。したがって、役員変更登記の申請に際して添付された株主リスト上で株主と記載されている者が、従前の登記申請において添付された株主リスト上の株主と異なる場合であっても、法務局は、当該登記申請を拒絶することはありません。また、代表取締役の解任の場合、これらの必要書類に、法務局へ届け出ている会社の代表印を捺印することも求められません(これは、解任の場合、従前の代表取締役の協力を得られない可能性があることも考慮した規定です。)。

 以上のとおり、法務局による審査は、提出された書類が適式であるか否かの形式審査に過ぎず、実体審査は行われないため、偽造書類が使用された場合、虚偽登記を防ぐことは必ずしも容易ではありません。

 そこで、知らぬ間に会社が乗っ取られてしまうことを防止するための措置として、法務局に会社の役員全員を解任する旨の登記申請がなされた場合、登記完了後に法務局から会社の本店宛にその旨を通知する書面が送付されることとなっています。これにより、仮に当該登記申請が虚偽である場合、既存の役員はその事実を知ることができます。本件においても、「ユナイテッド」の本来の代表取締役に対し、法務局からの通知がなされたことによって、虚偽登記が発覚したとされています。

4. 終わりに

 上記のとおり、書類が偽造されたような場合、虚偽登記を事前に防ぐことは難しく、登記申請が通ってしまうこともありえます。法務局からその旨の通知を受領した場合、取締役の職務執行停止の仮処分等の必要手続を直ちに行う必要があると言えます。

 過去において、私自身も実際に、そのような虚偽登記を行われてしまった依頼者の方を代理して、仮処分や訴訟等の手続を行った経験もございます。また、当事務所では、それ以外にも、商業登記申請を含む一般企業法務を幅広く取り扱っております。ご相談等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

法律事務所かがやき
弁護士 吉田 勇輝