反社チェック・反社条項の重要性

 皆様こんにちは、弁護士の吉田勇輝です。法律事務所かがやきのウェブサイトにお越しいただきありがとうございます。今回のトピックは、反社チェック・反社条項の重要性についてです。

1. はじめに

 「餃子の王将」を運営する王将フードサービス(以下「王将」といいます。)の社長が2013年に射殺された事件につき、2022年10月28日、京都府警は、九州に拠点を置く暴力団の組員を殺人容疑で逮捕しました。また、反社会的勢力との関係の有無等を調査するために王将が2016年に設置した第三者委員会による調査報告書によれば、1995年から2006年頃までの間、創業家との関係が深い男性が経営する企業グループとの不適切な取引があり、約200億円が流出し、そのうち約170数億円が未回収になっているとされました。ただし、調査報告書の結論としては、王将と反社会的勢力との関係の存在は確認されなかったとしています。

 いずれにせよ、企業を買収したり、企業との取引を新たに行ったりするに際しては、当該企業やその役員等が反社会的勢力に該当しないかの確認(以下「反社チェック」といいます。)を行った上で、実際に契約を締結するに際しては、当該契約に反社会的勢力の排除に関する条項(以下「反社条項」といいます。)を規定することが重要となります。

2. 反社会的勢力とは

 「反社会的勢力」という用語は最近すっかり一般的に使用されるようになりましたが、実は、法律で明確に定義されている用語ではありません。

 ただし、2007年6月19日に政府の犯罪対策閣僚会議の申し合わせとして策定された「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(以下「反社指針」といいます。)によれば、「反社会的勢力」は、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」であるとされており、暴力団のみでなく、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等も含む、広範な概念であると考えられています。

 反社指針はあくまでも指針であり、法的拘束力はありませんが、契約に反社条項を設けるに際しては、基本的にはこれと似た定義が使用されることが多いかと思います。

3. 反社チェック

 反社チェックについても、これを義務付ける法律は特に存在しません。ただし、反社指針において、企業は「相手方が反社会的勢力であるかどうかについて、常に、通常必要と思われる注意を払う」必要があるとされています。

 また、東京都の暴力団排除条例においては、事業者は「契約の相手方…その他の関係者が暴力団関係者でないことを確認するよう努めるものとする」と努力義務が課されています。なお、上記のとおり、反社会的勢力は、暴力団より広範な概念であることに留意が必要です。

 具体的な反社チェック(バックグラウンド・チェックと呼ばれることもあります。)の方法としては、①Google等のインターネット検索、②第三者調査機関の利用、③警察や暴力団追放運動推進センターへの照会といったものがあり、状況に応じて、これらの方法を使い分けることが一般的かと思います。

4. 反社条項

 一般的な反社条項の内容としては、以下のものがあげられます。

  • 相手方に対し、現在及び将来にわたって、①自己又はその役員等が反社会的勢力ではないこと、②反社会的勢力と関係を有していないこと、③暴力的な要求行為その他の反社会的行為を行っていないことを表明及び確約すること。
  • いずれかの当事者は、相手方が上記に違反した場合、無催告で契約を解除できること。その場合、解除当事者は当該解除について、損害賠償責任を負わないこと。
  • 相手方が上記に違反した場合、解除当事者は相手方に対して一定の損害賠償を請求できること。

 また、具体的な条項の例は以下のとおりです(なお、あくまでも一例ですので、実際に契約書を作成するに際しては、適宜弁護士等のアドバイスを得ていただければと思います。)。

第●条(反社会的勢力の排除)
1.    甲及び乙は、現在、①暴力団、②暴力団員、③暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者、④暴力団準構成員、⑤暴力団関係企業、⑥総会屋等、⑦社会運動等標ぼうゴロ、⑧特殊知能暴力集団、⑨暴力、威力若しくは詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求するその他の集団若しくは個人、又は⑩これらに準ずる者(以下「反社会的勢力」と総称する。)に該当しないこと、及び次の各号のいずれにも該当しないことを表明し、かつ将来にわたっても該当しないことを確約する。
(1)     反社会的勢力が経営を支配していると認められる関係を有すること。
(2)     反社会的勢力が経営に実質的に関与していると認められる関係を有すること。
(3)     自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図る目的又は第三者に損害を加える目的をもってするなど、不当に反社会的勢力を利用していると認められる関係を有すること。
(4)     反社会的勢力に対して資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有すること。
(5)     役員又は経営に実質的に関与している者が反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有すること。

2.    甲及び乙は、自ら又は第三者を利用して次の各号のいずれかに該当する行為を行ってはならない。
(1)     暴力的な要求行為。
(2)     法的な責任を超えた不当な要求行為。
(3)     取引に関して、脅迫的な言動をし、又は暴力を用いる行為。
(4)     風説を流布し、偽計を用い又は威力を用いて相手方の信用を毀損し、又は相手方の業務を妨害する行為。
(5)     その他前各号に準ずる行為。

3.    甲及び乙は、相手方が前2項のいずれかに違反した場合は、通知又は催告等何らの手続を要することなく直ちに本契約を解除することができるものとする。

4.    甲及び乙は、前項に基づく解除により解除された当事者が被った損害につき、一切の義務及び責任を負わないものとする。また、前項に基づく解除により、甲又は乙に損害が生じたときは、解除された当事者は、その損害を賠償するものとする。

5. 終わりに

 コンプライアンスの強化が叫ばれる昨今、反社会的勢力との取引が発覚した場合、企業にとってはそのレピュテーションに大きな悪影響を及ぼすことになります。したがって、反社チェックを徹底するとともに、取引先が反社会的勢力であることが判明した場合、直ちに取引を解消できるよう反社条項を設けておく必要性は非常に大きいと言えます。

 当事務所では、各種契約のレビューを始めとする一般企業法務を幅広く取り扱っております。また、M&A・事業承継についても、豊富な経験を有しております。ご相談等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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弁護士 吉田 勇輝