給与デジタル払いの解禁

 皆様こんにちは、弁護士の吉田勇輝です。法律事務所かがやきのウェブサイトにお越しいただきありがとうございます。今回のトピックは、給与デジタル払いの解禁についてです。

1. はじめに

 2022年10月26日、厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会は、給与のデジタル払い(すなわち、〇〇ペイといったキャッシュレス決済口座への送金によって給与を支払うこと)を認める労働基準法施行規則の改正案を了承しました。これを受け、厚生労働省は、11月中に改正規則を公布する予定とのことであり、2023年4月から施行されることが見込まれています。

2. 労働基準法における賃金支払規制

 最近では、銀行振込によって給与が支払われている人が大半かと思いますが、労働基準法第24条は、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と規定しており、あくまでも現金での支払いが原則とされています。そして、その例外として、労働基準法施行規則第7条の2第1項において、労働者の同意がある場合には、銀行や証券総合口座への振込みの方法も認められています。

 こうした中、キャッシュレス決済の普及や、銀行口座の開設が困難な外国人労働者への給与支払手段が必要といった事情を背景として、給与のデジタル払いを認めるよう求める声が上がってきました。

 これに対しては、キャッシュレス決済口座は、銀行ではなく(資金決済法に基づき登録を受けた)資金移動業者が管理するところ、当該業者が経営破綻したときの補償やセキュリティ上の観点から、労働者の保護が不十分であるとして、反対意見も出されていました。

3. 給与デジタル払い制度の概要

 冒頭記載のとおり、今般、給与のデジタル払いが解禁されることになりましたが、上記のような反対意見にも配慮して、以下のような要件が課されています。

  • 給与のデジタル払いには、労働者の同意が必要であり、かつ、労働者に対しては、銀行や証券総合口座への振込みも選択できるようにしなければなりません(すなわち、労働者は、給与のデジタル払いを強制されるわけではありません。)。
  • デジタル払いがなされる口座の残高は、100万円が上限とされます(100万円を超える部分については、速やかに労働者の銀行口座に送金されるなどの措置が取られる必要があります。)。そして、資金移動業者の破産等の場合、労働者の口座残高全額を速やかに労働者に保証する仕組みを有していることが求められます。
  • ATMを利用することなどにより、口座から現金への換金が可能であること、かつ、少なくとも毎月1回は手数料なく換金ができることが求められます。

 そして、給与のデジタル払いにおいては、以上のような条件を満たすものとして、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者のみを使用することができます。

4. 終わりに

 冒頭記載のとおり、改正規則は、2023年4月から施行される予定ですが、その後の資金移動業者の指定などに時間を要するため、実際に給与のデジタル払いが開始されるのは施行から数か月後であるとも言われています。

 ただ、給与のデジタル払いが認められる場合の条件等は、上記で明記したものに限らず、かなり詳細かつ複雑となっておりますので、給与のデジタル払いを利用しようと考えている使用者の方においては、予めその内容について熟知した上で、事前に準備を進めておく必要があります。

 当事務所では、給与のデジタル払いの問題に限らず、就業規則その他の社内規程の整備などを始めとして、使用者の皆様に対する労働法上のアドバイスを幅広く行っております。また、労働者の方からの労働問題のご相談も承っております。何かお困りのことがございましたら、お気軽にお問い合わせください。

法律事務所かがやき
弁護士 吉田 勇輝